水琴窟マイスター田村

水琴窟を次世代に継承するために情報を公開し、
マイスターとして、これからも夢のある仕掛けを提案して行きます。

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新たな水琴窟文化をつくるために

私の本音!

日本の庭は古くから、『遠くにある風景を身近に感じたい』という思いや、更に実用的な物などを次々に取り入れて、少しずつ進歩しながら現代に文化を継承してきました。
例えば、玄関先の目隠しや装飾として使用された袖垣、枯れ山水や、池泉回遊式、蹲(つくばい)、筧(かけい)獅子脅しなども、いわばその当時の独創的な発明品だった訳です。

水琴窟でも同じことが言えます。しかし、水琴窟は『庭の一部』として登場しますが、他の作品とは少しばかり違った性質を持っているのかも知れません。
視覚と聴覚を研ぎ澄ますことのできる、過去に例のない癒しのオブジェです。滴を反響させて聴く音というのは実に奥深いものです。
地上部の蹲踞(つくばい)が見えていても、水琴窟その物はかすかな音を発するだけで、地面の下に隠れていて姿が見えない、まさに見え隠れのする日本独自のわびとさびを演出する神秘的な仕掛です。


  • 蹲踞(つくばい)

    茶室の露地に作り、茶室に招かれる前に口や手を洗い清めるためのもの。

水琴窟は、既存してあった蹲踞(つくばい)や縁先手水鉢(えんさきちょうずばち)を利用して、余った水で音も楽しむという、一石二鳥の発明品です。
しかし作り方や維持が難しいため、発明当時、それが普及したとは考えにくいのです。
ですが情報の行き渡らない時の状況で、日本の各地に作られていたことは事実ですから、当時の庭師が積極的に新しいことを取り入れて伝えようと各地に足を運んで実践したその努力には、本当に頭が下がる思いです。

当時の水琴窟の致命傷

当時の水琴窟の構造は、そのまま甕(かめ)の下に水がしみていく『自然浸透式』のものが多く、その土地の地盤環境により、水が溜まらずに音が鳴らなかった物や、浸透せずに水があふれてくる物などが考えられます。
つまり、いつ聴いても良好な音を発している物ではなく、実に気まぐれな水琴窟が多かったに違いないのです。
※甕底に器を置いて水を溜めていた江戸後期の物も見つかっている。(1988年・京都伏見南部文化会館建設予定地の庄屋跡地発掘時)

それともうひとつ、長年の間に砂が堆積して、鳴らなくなってしまうという点だ。これが当時の水琴窟構造の代表的な欠点でもあり、致命傷となるものでした。

しかしこれは100年も200年も前の話です。当時の材料や道具類には限りがあるわけで、あのような工法以外にはないと考えると、それも仕方のないことだったのでしょう。
考えてみてください。割れやすい甕(かめ)の底に水門の穴ひとつあけるのにも、気の遠くなるほどの時間と労力を注いだはずなのですから。

現代だから出来ること

現代には密閉度の高い素材があり、加工する道具類の質も非常に良くなっています。
だからこの時代にわざわざ気まぐれや短命な水琴窟を作ることはないし、それらの良い道具を活用することで、滴のたどる道を自在に操ることも不可能ではないのです。
今私がやっていることは、甕(かめ)の細部を加工をすることで、様々な音色を意のままに作り上げることを可能にしています。
しかしほとんどの業者は、甕底に水門を開けた後、その甕をそのまま埋めてしまうというのが多いようです。
水門は、穴を開けたその後の加工が命なのが分かっていないし、その工程を怠ると長年聴いているうちにお客様は次第にその音に満足できなくなります。実は、それを作った本人でも物足りなさに気が付いているはずです・・。たとえばしっかり音が‘ピーン’と響いている滴もあれば、時々‘ピチッ’とか‘ピコッ’とかいうハズレたような滴音が混ざっている・・ でもそれがなぜそうなるのかが、理解できていない・・。近年YouTubeで検索し、水琴窟の音を聴いてもそのようなものばかりです。
そんな欠点を克服するためには、まず滴には様々な大きさ(直径値)が存在することを知ってほしいのです。滴は、6㎜前後が最大値と言われています。いわゆる 水琴窟で失敗のない音を作るには、必ずこの大きさの滴が甕の天井から落ちてゆく必要があるのです。

現代の利便性をフルに活用し、先代が発明した水琴窟に磨きをかけてクオリティーを高めて行くことは、オーバーな言い方をすれば、平成から令和期での私の使命だと考えています。昔の職人だって、今のように便利な世の中だったなら、良質な物をたくさん残せたはずです。

ところが意外にも、この時代になっても多くの業者が昔と同じ事をやっているから頭を抱えます。と言うよりも、昔ながらのものが‘良いのですよ’と言って、それ以上は求めないという職人が多いことなのかも知れません。
昔のものでも良いところは良い、欠点は欠点と見定めて改良をしなければ良いものは望めません。
たとえば、今までより良い音を完成させたときには、二度と前の音を求めなくなるものです。

現在、私達が書店で手に入れることが出来る水琴窟の書籍には、参考にならないものばかりです。
その内容を見ると、驚くような幼稚な作り方や指導を、自信に満ちて掲載しているのが現状です。
手探りの工法や思いつきなどの自己流で作ったものは、バイブルにはなりません。四季を通してじっくり実験を重ねることが肝心です。甕ひとつ取っても、同じ条件の物はないのです。また、作る場所なども条件が様々ですから、その都度試行錯誤する事を惜しまないのです。

設計士や業者さんたちが、上記のような書籍を真に受けて取り組んでいる姿をよくみかけますが、まず甕の内部に器を置いて水を溜めること。これは甕のもつ特性を充分に生かすことがなく、音量は20%近く減少し、余韻も短く、水琴窟のレベルとしてはかなり低いものです。(昔のものは、数多くこの工法が見つかっている。)
また、底にタライを置いて水を溜めるものも、後に根などが入り込み、大変なことになります。昔の多くの水琴窟がならなくなった原因には、この毛根が水琴窟に入り込み、鳴らなくなったものもかなり多く、特に近くに大木などがある場合は要注意です。水琴窟の周りは湿度が100%にもなり、根はそれを求めて驚くほど根を伸ばして来ます。強度の弱い常滑のカメに亀裂が走り、その1㎜にも満たない隙間から入り込み、甕の中で毛根がびっしり膨らんでしまいます。改修工事で私はそんな状況をいくつも見ています。
また甕の質や大きさに対しても適切な水位はそれぞれですし、じっくり音を聴けばおのずと水位は決まるものです。

排水構造で、飛躍的に変わる!

排水構造において、甕(かめ)の内部でパイプを立ち上げ排水トラップを取り、水位を確保するやり方も行なわれているようですが、これは泥などが溜まり、苔でパイプがつまってしまうので、寿命は短くなる。しかも音も抜けてしまい、本来の音にはなりません。
昭和後期から業者たちによって、そのようなものが最も多く作られていいます。今になってコケがトラップにびっしりとまとわりついて、水門に達するまで満水になった水琴窟が蔓延しているのが現状です。

プロの仕事ならば、立ち上げ排水トラップは甕の外に取らなければダメです。甕底に溜まった砂などを簡単にオーバーホール(簡単な操作で汚れた水を入れ替える事)できる方法が可能になるのです。
先日、私が作った水琴窟をオーバーホールしたところ、ヘドロ状のものが沢山でてきたことに驚いてしまいました。わずか一年足らずですが、意外と泥水は溜まるものなのです!
過去に作られた水琴窟が10年あまりで鳴らなくなったという事例報告も、次々と出てきているのが現状です。
このように鳴らなくなった水琴窟が今後増え続けて行くことで、水琴窟の人気が衰えてしまうことを懸念しています。甕の中で排水トラップを立ち上げる事とタライを置いて甕を入れるやり方は、一部の愛好家が趣味で作る以外、プロならばやってほしくない工法です。
そんなわけで水琴窟は、オーバーホール出来る事と根が入り込まないように密閉することが絶対に不可欠というわけです。『根が入る隙もないように密閉してしまい、中は空洞にして甕の周りは空間のみ、栗石などは不要』これが私流なのです!