現状の水琴窟は、その中身の甕(カメ)といえば、たとえば田舎の家の裏庭に転がっている水甕や漬物甕などの古甕を利用して作ることが多く、近年では近隣の外国から輸入された水鉢なども安く出回っているため、それらを使う業者も少なくありません。
私も昔はそんな感じでしたが、いくつもの水琴窟を手掛けるにつれ、より余韻の長いものや、地震で壊れない硬い素材、焼き具合、形状、そして見た目の美しさなども徹底的にイメージを膨らませました。
全国の産地を何年か費やして探し、2006年やっと巡り合えた一人の陶工にお願いして理想の大甕を作ることになったのです。
それから数年後、その陶工が、高齢を理由に引退をしてしまいました。近頃では大物を焼く窯元が希少になり、替わりの陶工を探すのに苦労を強いられるのです。
しかしまた縁あって出会えた陶工に、以前と同じ設計で甕を作らせたのですが、これが前の物にも増して余韻が長く、音も透き通っていたのです。
土質や焼き方が変わっていないのに、なぜこんなに音が違うのか? そのなぞは水門などの加工時に分かった事ですが、陶器の中に、気泡が出てこないのです。要するに、粘土を練る工程で手を抜いていないということです。結果的にそれが余韻の長さに現れるのです。通常の甕の使い道は、水などの液体を入れるものですから、水さえ漏れなければ甕の機能が果たせるのですが、水琴窟で重要なのは音ですから、素材が締まっていなければならないのです。
今度のは丁寧で出来映えも美しい。これは腕のいい、こだわりのある貴重な職人だったのです。
というわけで、私の水琴窟はその時以来、各段にすばらしい音の甕を手に入れたことで、オーナーの方々には、自信を持って自慢が出来る水琴窟の提供を可能にしたのです。
2012.05