元NPO日本水琴窟フォーラムの会長であった故中野之也氏が見学に訪れました。私の水琴窟を下支えしてくれる良き師匠でもあります。
私の自宅のアプローチ脇に埋設型のデザイン水琴窟を完成させ、珍しさもあってかわざわざ三島に立ち寄っていただきました。
水琴窟といえば日本古来のものということもあり、その意匠は和風の蹲型がほとんどでした。
しかし実際に近代的な建物や施設などに設置するには、従来の和風ではどうなのか? 気を遣い悩むとこでもあります。(☆公共の場所では、壊されたり危険がないことと共に管理が行き届かなかったりもします。)
地下の機能は今までとは変らず、地上の意匠イメージをその場の背景に馴染むデザインに変えていくことも必要と考えます。
*作品の音をご確認ください↓
マイスター 田村の歴代置き型水琴窟
販売終了
試作品
・現在販売している置き型水琴窟は・
進化する音へのこだわり
1993年に水琴窟コンサートを始めるようになってから、30回以上の公演をしています。
当初は演奏者のバックにただ水琴窟の音を増幅して流すのみでした。私と水琴窟がステージに上がって、見せるコンサートになったのは途中からのことです。
コンサートでは、ステージ用に作った移動型水琴窟(スペースサウンド)にマイクを直接入れて音を出すため、水琴窟の音は実にリアルです。
ステージにスペースサウンドをセットするときは、毎回その度に滴の落ち具合を、微妙に甕を傾けて調整しています。なぜなら、水滴を3箇所以上から落したいからです。そうすることで音に変化が生まれ、感動的に演奏と融合することが可能なのです。しかし、これが結構時間が掛かって大変。
ところがある日、ハッとひらめいたのです。そんなに大変な思いをしなくても、良い方法が分かったのです。
滴の落ちる表面を、予め3箇所以上にコブ状のものを加工しておけば良いのです。
2002年5月静岡県駿東郡長泉町 如来寺に水琴窟を製作するときのことです。
偶然、何日か前から水琴窟の様子を撮りたいとNHK静岡放送テレビが取材に訪れていました。
水琴窟の作り方を、くまなくカメラ撮りしたいとの事。今まで水琴窟を取材したくても、なかなかその中身を見せたがらない業者達に苦戦し、取材陣も今度こそはと期待していたようです。
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過去には様々な甕を試したのだが…
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カメの加工の様子(2002年頃)
この頃は、常滑の素焼きも使っていたのですが…徐々に決定的欠陥が分かってきた! -
甕の天井の6箇所以上から滴が落ちるように加工。これで様々な音階やランダムな‘間’が生み出される。
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〈水門加工・・水を操る?!この技を磨かねば、癒しの音は完成しない!〉甕は独自に設計企画した強度のある堅焼きもの以外は、使用しなくなった。(2010年以降)
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音の良さは、甕(カメ)で決まる!
現状の水琴窟は、その中身の甕(カメ)といえば、たとえば田舎の家の裏庭に転がっている水甕や漬物甕などの古甕を利用して作ることが多く、近年では近隣の外国から輸入された水鉢なども安く出回っているため、それらを使う業者も少なくありません。
私も昔はそんな感じでしたが、いくつもの水琴窟を手掛けるにつれ、より余韻の長いものや、地震で壊れない硬い素材、焼き具合、形状、そして見た目の美しさなども徹底的にイメージを膨らませました。
全国の産地を何年か費やして探し、2006年やっと巡り合えた一人の陶工にお願いして理想の大甕を作ることになったのです。
それから数年後、その陶工が、高齢を理由に引退をしてしまいました。近頃では大物を焼く窯元が希少になり、替わりの陶工を探すのに苦労を強いられるのです。
しかしまた縁あって出会えた陶工に、以前と同じ設計で甕を作らせたのですが、これが前の物にも増して余韻が長く、音も透き通っていたのです。
土質や焼き方が変わっていないのに、なぜこんなに音が違うのか? そのなぞは水門などの加工時に分かった事ですが、陶器の中に、気泡が出てこないのです。要するに、粘土を練る工程で手を抜いていないということです。結果的にそれが余韻の長さに現れるのです。通常の甕の使い道は、水などの液体を入れるものですから、水さえ漏れなければ甕の機能が果たせるのですが、水琴窟で重要なのは音ですから、素材が締まっていなければならないのです。
今度のは丁寧で出来映えも美しい。これは腕のいい、こだわりのある貴重な職人だったのです。
というわけで、私の水琴窟はその時以来、各段にすばらしい音の甕を手に入れたことで、オーナーの方々には、自信を持って自慢が出来る水琴窟の提供を可能にしたのです。
2012.05
新たな水琴窟文化をつくるために
私の本音!
日本庭園は古代から、『遠くにある風景を身近に感じたい』という思いや、更に実用的な物などを次々に取り入れて、少しずつ進歩しながら現代に文化を継承してきました。
例えば、玄関先の目隠しや装飾として使用された袖垣、枯れ山水や、池泉回遊式、蹲(つくばい)、筧(かけい)獅子脅しなども、いわばその時代にしては独創的な発明品です。
水琴窟でも同じことが言えます。しかし、水琴窟は『庭の一部』として登場しますが、他の作品とは少しばかり違った性質を持っているのかも知れません。
視覚と聴覚を研ぎ澄ますことのできる、過去に例のない癒しの仕掛けです。滴を反響させ聴く音というのは実に奥深いものです。
地上部の蹲踞(つくばい)の姿が見えていても、水琴窟は地面の中、かすかな音を発するだけで姿が見えない、まさに見え隠れする日本独自のわびとさびを演出する神秘的な仕掛です。
水琴窟は、既存してあった蹲踞(つくばい)や縁先手水鉢(えんさきちょうずばち)を利用して、残り水を利用して音を楽しむという、一石二鳥の発明品なわけです。
しかし作り方や維持が難しいため、発明当時、それが普及したとは考えにくいのです。
ですが情報の行き渡らない時代で、日本の各地に作られていたことは事実なのですから、当時の庭師が積極的に新しいことを取り入れて伝えようと各地に足を運んで実践したその努力には、本当に頭が下がる思いです。
当時の水琴窟の致命傷
当時の水琴窟の構造は、そのまま甕(かめ)の底から水がしみていく『自然浸透式』のものが多く、その土地の地盤環境により、水が溜まらずに音が鳴らなかった物や、浸透せずに水があふれてくる物などが考えられます。
つまり、いつ聴いても良好な音を発している物ではなく、実に気まぐれな水琴窟が多かったに違いないのです。
※甕底に器を置いて水を溜めていた江戸後期の物も見つかっている。(1988年・京都伏見南部文化会館建設予定地の庄屋跡地発掘時)
致命傷のひとつには、長年の間に泥が堆積して鳴らなくなってしまう、ということでした。
しかしこれは100年も200年も前の事です。当時は現代のように便利な材料や道具類がなかったのですから、仕方のないことだと思います。
考えてみてください。割れやすい甕(かめ)の底に水門の穴ひとつあけるのにも、気の遠くなるほどの時間と労力を注いだはずです。
現代だから出来ること
現代では密閉度の高い素材があり、加工する道具類の質も非常に良くなっています。
したがってこの時代にわざわざ気まぐれや短命な水琴窟を作ることは意味のないことではないでしょうか。それらの良い道具を活用することで、水のたどる道を自在に操ることも不可能ではないのです。
今私がやっていることは、甕(かめ)の細部を加工をすることで、様々な音色を意のままに作り上げることを可能にしています。
<今の業者のほとんどがわかっていないこと⁇>
ほとんどの業者は、甕底に水門を開けた後、その甕をそのまま埋めてしまうというのが多いようです。
水門は、穴を開けたその後の加工が命なのです、その工程を怠ると長年聴いているうちにお客様は次第にその音に満足できなくなります。実は、それを作った本人でも物足りなさに気が付いているはずです・・。たとえばしっかり音が‘ピーン’と響いている💧もあれば、時々‘ピチッ’とか‘ピコッ’とかいうハズレたような水琴音が混ざっている・・ でもそれがなぜそうなるのかが、理解できていないのです。近年YouTubeで検索し、水琴窟の音を聴いてもそのようなものばかりです。
そんな欠点を克服するためには、まず💧には様々な大きさが存在することを知ってほしいのです。💧の直径値は6㎜が最大値と言われています。いわゆる 水琴窟で失敗のない音を作るには、必ずこの大きさの💧が甕の天井から落ちてゆく必要があるのです。
現代の利便性をフルに活用し、先代が発明した水琴窟に磨きをかけてクオリティーを高めて行くことは、オーバーな言い方をすれば、現代に生きる私の使命だと考えています。例えば昔の職人も、今のように便利な世の中だったなら、良質な物をたくさん残せたはずです。
ところが意外にも、この時代になっても多くの業者が昔と同じ事をやっているから頭を抱えます。と言うよりも、昔ながらのものが‘良いのですよ’と言って、それ以上は探求しないという職人が多いのかも知れません。
昔のものでも良いところは良い、欠点は欠点と見定めて改良をしなければお客様が納得しません。
たとえば、今までより良い音を完成させたときには、二度と前の音を求めなくなるものです。
現在、私達が書店で手に入れることが出来る水琴窟の書籍には、参考にならないものばかりです。
その内容を見ると、驚くような幼稚な作り方や指導を、自信に満ちて掲載しているのが現状です。
手探りの工法や思いつきなどの自己流で作ったものは、バイブルにはなりません。四季を通してじっくり実験を重ねることが肝心です。甕ひとつ取っても、同じ条件の物はないのです。また、作る場所なども条件が様々ですから、その都度試行錯誤する事が大事だと思います。
設計士や業者さんたちが、上記のような書籍を真に受けて取り組んでいる姿をよくみかけますが、まず甕の内部に器を置いて水を溜めること。これは甕のもつ特性を充分に生かすことがなく、音量は20%近く減少し、余韻も短く、水琴窟のレベルとしてはかなり低いものです。(昔のものは、数多くこの工法が見つかっている。)
また、底にタライを置いて水を溜めるものも、後に根などが入り込み、大変なことになります。昔の多くの水琴窟がならなくなった原因には、この毛根が水琴窟に入り込み、鳴らなくなったものもかなり多く、特に近くに大木などがある場合は要注意です。水琴窟の周りは湿度が100%にもなり、水を求めて驚くほど根を伸ばしてまとわりつきます。強度の弱いカメには亀裂が走り、その1㎜にも満たない隙間から入り込み、甕の中で毛根がびっしり膨らんでしまいます。改修工事で私はそんな状況をいくつも見ています。
また甕の質や大きさに対しても適切な水位はそれぞれですし、じっくり音を聴けばおのずと水位は決まるものです。
排水構造で、飛躍的に変わる!
排水構造において、甕(かめ)の内部でパイプを立ち上げ排水トラップを取り、水位を確保するやり方も行なわれているようですが、これは泥などが溜まり、苔でパイプがつまってしまうので、寿命は短くなる。しかも音も抜けてしまい、本来の音にはなりません。
昭和後期から業者たちによって、そのようなものが最も多く作られていいます。今になってコケがトラップにびっしりとまとわりついて、水門に達するまで満水になった水琴窟が蔓延しているのが現状です。
プロの仕事ならば、立ち上げ排水トラップは甕の外に取ることが必要です。甕底に溜まった泥などを簡単にオーバーホール(簡単な操作で汚れた水を入れ替える事)できる方法が可能になるのです。
先日、私が作った水琴窟をオーバーホールしたところ、ヘドロ状のものが沢山でてきたことに驚きました。わずか一年足らずですが、意外と泥水は溜まるものなのです!
過去に作られた水琴窟が10年あまりで鳴らなくなったという報告も、出てきているのが現状です。
このように鳴らなくなった水琴窟が今後増え続けて行くことで、水琴窟の衰退を懸念しています。甕の中で排水トラップを立ち上げる事とタライを置いて甕を入れるやり方は、一部の愛好家が趣味で作る以外は、プロならばやめてほしい工法です。
水琴窟は、排水トラップは甕の外に、オーバーホール出来、根が入り込まないように甕周りを密閉することが大事ということになります。『根が入る隙もないように密閉してしまい、中は空洞にして甕の周りは空間のみ、栗石などは不要』これが私流です!
まだまだ、新たな技法が文章では説明困難なものががたくさんあります。